調査研究報告
群馬県における女性勤労者の勤務形態と健康指標との関連について
群馬県立医療短期大学助教授(現・高崎健康福祉大学教授) 竹内 一夫
はじめに
平成11年4月より労働基準法および男女雇用機会均等法が改正され、深夜業などについてさまざまな規制のあった女性保護規定が実質的に解消された。今後、女性労働者の勤務形態とこれに対する職場の意識が大きく変化していくことが予想される。そこで、現時点での群馬県下の女性勤労者の勤務形態・ライフスタイルと心身の健康状態、特に精神面での自覚症状との関連を明らかにするために質問紙調査を行った。
対象と方法
平成11年の秋に、群馬県下の事業所の内、女性労働者が多く、深夜にかかる不規則な勤務体制を持つという条件に該当する人材派遣会社(電話交換業を主たる業務とする)の3つの支所において、勤務形態やライフスタイルに関する質問事項に、職場ストレスやうつ状態評価のためのスケールを加えた自記式質問票(無記名)を配布し、調査への受動的同意を求めた上で回収した。
結果と考察
電話交換業務に従事する調査対象者226名の内、247名から回答を得た(回収率92.9%)。この内、有効回答者は243名であった。また、対照群は群馬県下の電気関係・土木関係などの一般企業4社の女性労働者142名である。両群合わせて385名の女性労働者における質問紙調査の集計結果を示す。
電話交換業務に従事する対象者229名を、勤務時間帯が通常の日勤時間帯におさまるか、夜間にかかるかで、「日勤群」(104名)と「日勤以外の群」(125名)に群分けした。なお、対照群(一般企業女性労働者)はすべて日勤者である。
対照群と比較したところ、「日勤群」「日勤以外の群」は年齢構成や婚姻状況、収入、身分(正社員か否か)などの基本的な背景が大きく異なっていた。例えば、平均年齢(標準偏差)は電話交換業の「日勤群」で40.6±8.9才、「日勤以外の群」で38.6±10.8才、「一般企業日勤群」で33.5±7.8才であった。婚姻状況は、対照群では全体の6割が結婚生活を送っており、4割弱が未婚であったのに比べ、「日勤群」では8割近くが結婚生活を送っており、未婚は1割強、また「日勤以外の群」では結婚生活を送っているものは約半数で、未婚のものは3割5分を占めていた。さらに身分において、対照群ではほぼ全員が正社員であるのに比べ、上記「日勤群」では全員が、また「日勤以外の群」では91%が嘱託・パートタイム勤務であった。 同年代どうしで比較したところ、対照群に比べると、電話交換業に携わる今回調査対象者は、仕事不満足や抑うつ度がやや高く(図1)、仕事コントロール(現場での自己裁量度:高いほどストレスが低いとされる)が有意に低く(図2)、職場上司からの社会的サポートが有意に低かった(図3)。そのほかの要因ではあまり大きな差異はなかった。また、同じ電話交換業においても、「日勤群」が既婚者で家庭を持つものが多いためか、特に中年期以降の年代で、仕事への不満足や抑うつ度の高さや作業への裁量度・自由度(仕事コントロール)の低さにおける対照群との差が開く傾向が見られた。
このように職場の作業環境の強い影響がうかがわれる一方で、必ずしも不規則勤務それだけが精神的健康の増悪に直結するとは限らないことが示唆され、家庭と職場との生活時間の整合性による影響などを検討することも必要であると考えられた。
今後の展望
現時点では、系統的な不規則時間勤務を有している職種は限られているが、法改正後は女性労働者の勤務時間帯の変化が一般的な職種の業務の中に浸透していくことが予想され、今後、今回調査と同じ方法論を用いて、さまざまな業種のスペクトラムにおいて再調査を試みることが期待される。
なお、本調査は平成11年度の労働福祉事業団の助成を受けた(主任研究者:善如寺秀前群馬産業保健推進センター所長)。この場を借りて、本調査に協力していただいた事業所の皆様に感謝を述べさせていただきます。
図1 CES-D得点平均値(抑うつ度)の比較
図2 仕事コントロール尺度得点平均値の比較
図3 上司支援尺度得点平均値の比較