調査研究報告
群馬県の産業保健に関わる保健婦・看護婦の労働実態について
主任研究者 群馬産業保健推進センター 所長 神山 照秋
共同研究者 群馬産業保健推進センター 相談員 大野 絢子
群馬産業保健推進センター 相談員 竹内 一夫
群馬大学医学部保健学科 講師 森 陽子
群馬大学医学部保健学科 助手 新納 美美
川崎市立看護短期大学 講師 松岡 治子
はじめに
近年、職域における看護職の役割が注目されているが、その労働実態は明らかにされていない。本研究では、産業保健に関わっている看護職の労働実態を明らかにし、今後の課題を検討した。
結果と考察
回答者の平均年齢は44.1歳(範囲26.0~67.0歳)で、すべて女性であった。職種は看護婦が61.1%と最も多く、保健婦は33.6%、准看護婦は5.2%であった。所属事業所は、企業および単一企業の健康保険組合で全体の74.7%を占めており、規模は、従業員500人以上の大規模事業所が75.8%を占めていた。また、雇用形態は、正職員が60.0%と最も多く、次いで嘱託25.3%、パート9.5%、その他5.3%(以上、非正職員)であった。図1のように正職員を雇用しているのは従業員1000人以上の大規模事業所に集中しており、非正職員でも従業員500~999人の大規模事業所に偏る傾向がみられた。大規模事業所ほど複数の看護職を雇用する傾向があるため、今回の集計方法では、大規模事業所の所属が実際の事業所数よりも多くみえてしまうことを考慮しなくてはならない。しかし、企業間の競争が激化し経営のスリム化を図るようになっており、その一環として業務の外注化が進んでいることを考えれば、事業所が、看護職を正職員としてではなく非正職員として雇用する方向で変化してきている可能性もあるといえるだろう。
日常業務(図2)では、健診関連業務に関わっている者が最も多く、中でも健診事後指導は94.7%の回答者が関わっていると回答していた。次いで、健康相談業務が多く、メンタルヘルス以外の健康相談に関わる者は91.6%、メンタルヘルス相談に関わる者は74.7%であった。また、応急処置・救急対応も82.1%が関わっていると回答していた。「重きを置いている業務」(図3)では、88%が「健診の事後指導」をあげ、次いで「健康相談(メンタルヘルス以外)」66%、「健診結果の事務処理」41%、「健診の実施」「メンタルヘルス相談」が各々39%であった。「時間を費やす業務」では、「健診の事務処理」が60%と、「健診の事後指導」の79%に次いで多かった。労働安全衛生法第66条では、健康診断の事後措置として医師および保健婦による保健指導の実施を提示している。このことは看護職に対する事業所側の役割期待が健診事後指導に焦点化される基盤になっているものと思われる。
さらに看護外業務について回答を求めたところ、行っていると回答したのは29.5%、時間を費やすと回答したのは11.5%で、すべて正職員であった。看護外業務を行う理由については多様で、「事業所の方針で事務関係の役割がある」「人員削減の影響で他の業務をカバーしなければならない」という内容のものが多かった。一般事務職として雇用されているという回答もみられた。多様な業務形態が窺えるとともに、看護職が庶務的な業務の人員不足を補う担い手として位置づけられているケースも少なくないことが明らかになった。
今後の展望
結果を総括すると、看護職の労働環境は厳しい状況にあった。この状況をふまえ、産業看護職が自ら活動指針を打ち出し、その活動効果を示していくことが急務であると考えられた。そのため、現場の産業看護職が自ら学問的根拠に基づいた業務の指針を提言していけるよう支援していくことが産業保健推進センターおよび研究教育機関の役割と思われる。その役割を果たすべく、この調査結果を当センターの活動に反映させていきたい。