産業保健業務担当者に対する効果的な研修プログラム構築に関する調査

研究代表者 群馬産業保健推進センター   所長    鈴木 庄亮

共同研究者 群馬産業保健推進センター   相談員  大野 絢子

共同研究者 群馬産業保健推進センター   相談員  竹内 一夫

研究協力者 群馬大学医学部保健学科    講師   松岡 治子

研究協力者 埼玉医科大学公衆衛生学教室 助手   太田 晶子

対象

群馬県および埼玉県の151の事業所に勤務する産業看護職(保健師・看護師)247名を対象として質問紙調査を実施したところ、132部を回収し、そのうち129部が有効回答であった。(有効回答率52.2%)。

分析結果

  1. 回答者の特性
    回答者のすべてが女性であり、平均年齢は45.2±10.6歳であった。産業保健業務経験の平均年数は9.6±7.6年、現職平均経験年数は8.9±8.1年で、約4割が5年未満であった。
  2. 事業所の特性
    回答者の約7割が「企業」の所属であり、所属部署では「診療所や医務室など医療に関連する部署」24.8%、「健康管理センターなどの保健に関する部署」17.1%「これらの二つの機能をもつ部署」19.4%であった。
  3. 産業保健業務担当者として必要な知識や能力
    (百分率は、「かなり必要である」あるいは「必要である」と評価した回答者の割合を示す。)
    「健康や医学に関する知識」100%、「予防医学の知識」99.2%、「行動変容を促す能力」96.9%
    「指導方法の基礎知識」96.1%などの項目は割合が高かった。しかし、「生産性との調整能力」42.6%、「コストマネジメント」56.6%、「根回しなどで事業を進めやすくする能力」56.6%、などの項目は半数程度にとどまった。
  4. 実務者が求める研修内容とその方法
    (百分率は、「かなり必要である」あるいは「必要である」と評価した回答者の割合を示す。)
    「従業員の悩み、相談の受け方」および「生活習慣病の合併例に対する保健指導」はともに96.9%、「面接法・コミニュケーション技法」93.8%、で割合が高かった。しかし、「あまり知られていない法律・規則」44.2%、「経済に関わる数値の算出方法」45.7%などは半数以下であった。研修方法については複数回答で尋ねた。その結果、いずれの研修も講義形式を希望するものが多かった。しかし、「面接法・コミニュケーション技法」、「従業員の悩み、相談の受け方」、「救急法・応急処置の方法」などの項目は演習を希望するものが63~73%を占め、実習についても半数のものから希望があった。
  5. 研修に対する希望
    (百分率は、「かなり必要である」あるいは「必要である」と評価した回答者の割合を示す。)
    「情報交換ができるような場がほしい」、「メンタルヘルス関連の症例(事例)検討をしたい」などはともに80%以上であった。しかし、「夜間の開催」4.6%、「研修の土日、祝日の開催」11.6%などは極めて要望が少なかった。

考察

  1. 回答者の特性
    産業保健業務の平均業務年数は10年未満であり、全体の3分の1は5年未満であった。これらのことから、業務経験の少ないことによる業務への不安や未熟性などの問題を抱えている可能性が考えられる。
  2. 産業保健業務担当者として必要な知識や能力
    「予防医学の知識」や「行動変容を促す能力」等の項目が必要な知識、能力として高く評価されたのは、回答者の61%が医療あるいは保健に関する部署に所属していることと関連があると考えられる。
  3. 実務者が求める研修内容とその方法
    最近では職場のメンタルヘルスが重要視されるようになっているが、本研究においてもメンタルヘルスに関する項目について必要性が高く評価された。また、研修方法では講義の他、演習や実習の希望が多いことが明らかとなった。今後は講義形式のみならず演習や実習を取り入れ、より効果的な研修を行うことが重要である。そのためには講師や研修施設の充実および実習協力を得るための事業所との連携を図っていくことも必要であろう。
  4. 研修に対する要望
    情報交換の場やメンタルヘルスに関する症例検討などの要望が高かった。研修参加への動機づけを高める方法としては、系統立てた学習内容や、より専門的な知識に結びつくような学習方法を用いて研修を実施していくこと、あるいは研修参加時の代替え体制をつくるなど離席しやすい環境づくりの支援も重要であろう。