群馬県における産業メンタルヘルス・カウンセリング資源の実態調査とネットワーク構築の試み

研究代表者所属・職氏名:群馬産業保健推進センター 所長 鈴木庄亮

調査研究期間:平成16年5月~平成17年3月31日

調査研究体制:
鈴木 庄亮 群馬産業保健推進センター所長、企画・総括責任
椎原 康史 群馬大学医学部保健学科教授 群馬産業保健推進センター相談員(メンタルヘルス)
計画立案、総括
竹内 一夫 高崎健康福祉大学保健福祉学科教授、同センター相談員(メンタルヘルス)調査実施、データ解析
松岡 治子 群馬大学医学部保健学科講師  質問票作成
鈴木 浄美 群馬ヘルスカウンセリングルーム所長 渉外

はじめに

近年、職域におけるメンタルヘルス支援の重要性が指摘されるようになり、群馬産業保健推進センターでは業務計画に職域メンタルヘルス・ケアシステムの構築を支援すること、特に職域メンタルヘルスに関係する各職種のネットワークを早急に構築することを掲げている。また平成14年度の調査によると職域メンタルヘルス・ケアの場面においては、事業場外メンタルヘルス専門家への相談を求める要望が多く、さらに医師よりもカウンセラーに相談する方が抵抗が少ないという意見も多くみられ、カウンセラーの需要は大きいと思われる。しかし、カウンセラーが行う治療の内容などの情報はメンタルヘルス専門医療機関に比較して極めて乏しい。またカウンセリングを受けられる相談窓口の住所についても情報が少なく、実用的・包括的リストは存在しない。そこで、本研究では職域メンタルヘルスにおけるカウンセリングについての意識を調査するため群馬県内の職域メンタルヘルスに関連のある各種カウンセリング団体・機関に所属するカウンセラーを対象として職域メンタルヘルスへの関心、ネットワークへの参加意思などについて質問紙調査を行った。

研究方法

群馬県内の産業カウンセリング協会、臨床心理士会など職域メンタルヘルスに関連のある各種カウンセリング団体・機関に所属するカウンセラー285名を対象とした。各団体に調査趣旨を説明した上でカウンセラー個人に質問紙を郵送し、回収した。
調査期間は平成16年7月~8月上旬であった。
質問紙は二部構成とした。第一部『職域メンタルヘルスについての意識調査』では、職域メンタルヘルスへの関心や業務への参加意欲について尋ねた。第二部『職域メンタルヘルスへ関心のある人を対象とした意向調査』では、ネットワークへの参加の意思、および機関リストへの掲載希望、カウンセリング業務の経験などについて尋ねた。

結果および考察

質問紙は対象者285名い配布し、116名から回答を得た(回収率40.7%)。性別は女性は81名(69.8%)、男性は35名(30.2%)であった。平均年齢は46.2±9.6歳(22~67歳)で40~50歳代が7割を占めていた。
所属団体別にみると、産業カウンセリング協会が60名(51.7%)、臨床心理士会が33名(28.4%)その他が23名(19.8%)であった。

第一部『職域メンタルヘルスについての意識調査』 

  1. 職域メンタルヘルスの関心および参加意欲
    全体的には高い関心が示されたが、所属別にみると、産業カウンセリング協会と臨床心理士会では解離が認められた(表1)。希望する業務内を重複回答で尋ねたところ、「社員からのメンタルヘルス相談への対応」、「メンタルヘルス全般」、「ストレスマネージメント・セルフケア」などメンタルヘルス全般に関する業務の希望は50~70%と高かったが、「復職援助・リハビリ出勤の調整」、「キャリア・カウンセリング」などについては消極的であった。
  2. 職域メンタルヘルス関連の研修や講演の経験
    受講経験のある者は71名(61.2%)で、産業カウンセリング協会では60名のうち49名(81.7%)、臨床心理士会では33名のうちの8名(24.2%)であった。受講した研修内容を重複回答で尋ねたところ、「メンタルヘルス全般」(88.7%)、「カウンセリングマインド・傾聴訓練」(88.7%)、「ストレスマネジメント」(62.0%)などが多かった。一方、研修や講演を担当した経験がある者は36名(31.0%)と減少したが、産業カウンセリング協会は18名(30.0%)臨床心理士会は9名(27.3%)で割合には差がなかった。担当した研修内容は「カウンセリングマインド・傾聴訓練」(91.7%)が圧倒的に多く、他には「ストレスマネジメント」(55.6%)、「メンタルヘルス全般」(50.0%)が多かった(重複回答)。
  3. 職域メンタルヘルス関連のカウンセリング経験
    「企業内で社員からのメンタルヘルス相談に対応した経験」が54名(46.6%)でもっとも多く、次いで「職業の選択・適性などについての相談・助言の経験」が47名(40.5%)、「メンタルヘルス専門機関への受診を説得した経験」44名(37.9%)などであった。このように職域のカウンセラーは、復職支援、職業の選択・適性などについての相談など、職域メンタルヘルスに特有のカウンセリングにも対応していた。
  4. 職域メンタルヘルスに関する意見
    自由記述で記入を求めたところ18名から回答を得た。主な内容は、職域メンタルヘルスおよびカウンセリングの必要性を強調したもの、相談・カウンセラーのリスト整備を要望するもの、職域メンタルヘルスに関連する人々連携とネットワークの必要性、メンタルヘルス予防と教育の必要性、事業所内のメンタルヘルスケア・システムの構築の必要性、支援者自身の支援などについてであった。

第二部『職域メンタルヘルスへの関心のある人を対象とした意向調査』

職域メンタルヘルス・ネットワークへの参加希望者は対象者116名のうち74名(63.8%)であり、職域メンタルヘルス専門カウンセリング機関リストへの掲載希望者は22名(19.0%)であった。第一部で職域メンタルヘルスに対する関心を示すものは多かったが、具体的な意向・意欲を調べるとかなり減少した。なお、第二部の回答者におけるカウンセリング業務の経験年数の平均は11.1±9.0年(1年未満~40年)であり、5年ごとの階層別では「5年~9年」が12.9%でもっとも多かった。
今後、職域メンタルヘルスにおける心理カウンセラーの需要が高まることは確実と思われ、その充実を図るためにはカウンセラーのネットワークの形成が必要と考えられた。そこで、群馬産業保健推進センターでは産業保健スタッフ、(産業医、メンタルヘルス専門医、産業看護職など)を対象に職域メンタルヘルスの横断的なネットワーク形成を目的として「職域メンタルヘルス交流会」を発足させた(平成17年3月10日)。
さらに、群馬労働局、群馬大学、群馬県、群馬県医師会などの協力の下に『事業場の産業保健専門職のためのメンタルヘルス対応マニュアル』を作成し、県内の精神科医療機関リストとともに、本調査の結果に基づきカウンセリング機関リストも掲載した。全国展開の企業からも注文があり、初版1万部に加え改訂版1万部を増刷した。

表1 職域メンタルヘルスにおけるカウンセリング業務への関心   n=116

引用文献

  1. 労働福祉事業団群馬産業保健推進センター メンタルヘルス対策のための事業場外
    資源のあり方に関する調査研究 平成14年度産業保健調査研究報告書 2003.

平成17年3月
労働者健康安全機構
群馬産業保健推進センター 〒371-0022前橋市千代田町1-7-4-2F
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研究代表者 群馬産業保健推進センター 所長 鈴木 庄亮