調査研究報告
心身の健康の気づきからセルフケアへー質問紙THIを利用して
主任研究者 群馬産業保健推進センター 所長 鈴 木 庄 亮
共同研究者 同相談員 椎原康史、月岡鬨夫、栗原 久、
羽鳥裕明、浅野良雄、長沼誠一、京都府立医大・浅野弘明
はじめに
自分の心の健康度、とくに積極/消極的、うつ傾向などは気づきにくい。また、自覚症状の多少、生活習慣の適否なども日常生活の中で当たり前のことになりがちである。そこで、自記式の質問紙に答えてもらい、客観的評価をして本人に提示できることが望まれる。
当センターで改良した質問紙「健康チェック票THI」を用いて、医師、看護師などの医療者および既に実施の製造業社員に実施し、これらの点での健康管理へのTHIの有用性を検討した。
方法と対象集団
質問紙「健康チェック票THI」は自覚症状、精神心理的訴え、生活習慣、好みなど130項目の質問から構成され、3選択肢で回答するが、15の健康尺度(多愁訴、ストレス度、抑うつ度などの)について得点で個人の心身の健康状態が評価される。この評価は規準集団の尺度得点の分布の%タイルで示され、%タイルをもとに5または7段階評価も出される。7段階評価に基づく健康アドバイスが個人毎に尺度毎に打ち出されて親展で届けられる。アドバイスには疫学追跡調査により尺度得点の大小5分位群毎に死亡リスクが算定されているのでその結果もアドバイスに加味されている。
対象集団
1)埼玉県の医師222人、2)地方の某労災病院の261人、3)金属加工業HK社福島県KTK工場の265人、3)同社東京近郊のK工場の638人(2年連続THI実施)の4集団である。
結果
- 医師は、喫煙率15%と低く/運動実施率高く/労働時間長く/小太り//THI結果は抑うつ度大/心のストレス度大であった(下表)。
4つの職域集団の労働時間、喫煙率、運動・喫煙習慣、糖尿病% 集団 週労働≥60 運動≥週3回 喫煙率% 飲酒量大% 糖尿病あり 医師,男,100人 26% 14.00% 15% 15.20% 14% 看護師,女,169人 20% 1.80% *27% **11.8% - 福島工場,270人 8.30% 1.3% 男65% 29.50% 10% 埼玉工場,470人 8.3%→ 3.5% 6.8%→9.4% 男56% 20.50% 4% - 看護師女は、喫煙率27%と大/週労働時間長い/運動不足//THI結果は、抑うつ度大/チャレンジウオークなど運動をする者は健康度大であった(表)。
- 福島県KTK工場の特徴は、車社会/運動不足/肥満/高血圧/糖尿病が多かった。
- THIと保健指導の効果は、長時間労働の減少/節煙と運動習慣の拡大//THIで抑うつ度の低下と心のストレス度の低下が見られた。すなわちかなりの効果があったと言えた(表)。
- 参加医師自身の評価「THI結果は自己評価とよくマッチしていた」「正確でした」「アドバイスはとても良かった」「心の健康管理に大いに役立つと思う」など、好評であった。
THI Q128.「最近ストレス状態ですか?」 に対する回答(人)は前年より有意(p<0.01)に改善した!
考察
- 医師、看護師などの労働時間管理と心身の健康管理は、ひどく遅れをとっており、早急に対策が必要と思われた。
- 製造業従業員などの集団の観察で、THI実施によって、自分の生活習慣、労働時間、心身の健康状態の相対的位置づけが個別に知らされ、気づかされ、本人宛の健康アドバイスも読んで、かなりの人の保健行動が、改善の方向に動いた。すなわち、THIの実施と結果の理解が、勤労者の気づきを促し、セルフケア行動につなげることが出来たと言える。
- THIの結果が親展で個別に知らされ、その「健康アドバイス」で、自分の心身の状況の良い点や正常範囲である場合は、「あなたは心身のバランスがよくとれています」「この調子でやってください」などと賞賛・是認されるので、自身の心の健康について余計な心配をしなくなった、あるいは自信がついた人が多くなったと推測される。
- 製造工程従事の32歳(男)の事例。
この事例は、1年前にパワハラを受けていたが、そその後上司が替わってTHI結果が大幅に改善された。事例「・・・上司からひどいパワハラがあり、17年はストレスにどう向き合うかかなり内向的戦いを続けていました。しかし幸い18年からは上司が替り、自分の意思で仕事ができるようになった・・・。これが、心の
ストレス度が57→14%タイルへ、抑うつ度が73→33%タイルへと大幅に減少改善した理由だと思う」 と事例がアンケートで述べた。
また残業時間と日常運動については、「なるべく定時に仕事を終えるようにアレンジして少し早く帰れるようにできた。・・・サイクリングを始めたせいか、体調が良くなった・・・。」
確かに、多愁訴尺度得点が67→ 40%タイルへと、これも大幅改善していた。以上、事例本人の気づきがあり、それ以後のセルフケア行動に役立てられたと思われる。
平成18年3月
労働者健康安全機構
群馬産業保健推進センター 〒371-0022前橋市千代田町1-7-4-2F
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研究代表者 群馬産業保健推進センター 所長 鈴木 庄亮