群馬県における女性勤労者の労働態様と精神保健指標との関連 ~13年後の変化~

群馬県立医療短期大学助教授(現・高崎健康福祉大学教授) 竹内一夫

共同研究者 群馬大学医学部保健学科教授   椎原康史

京都府立医科大学准教授     浅野弘明

群馬産業保健総合支援センター所長 真下延男

埼玉医科大学講師        太田晶子

はじめに

研究代表者らは1999年に「群馬県における女性勤労者の勤務形態と睡眠、生活習慣、健康指標との関連について」というテーマで女性労働者の交代制勤務が各種健康指標に及ぼす影響を調査し、勤務時間帯の差異そのものより二次的に生じる上司のサポートの低下などが抑うつ傾向に影響を与えていることを示した。13年を経て同じ測定方法を用い、群馬県下の女性労働者の労働態様とメンタルヘルス指標の変化を検討した。

対象と方法

前回1999年調査で使用されたNIOSH仕事ストレスモデル項目とテキサス大学方式診断的抑うつ評価尺度 DSD項目を中心とした質問票を用いた。交代性勤務者を含む群馬県内のA医療法人の全職種を対象として調査群のデータを収集した。対照群として、同機関の交代制勤務を含まない事務職等と一般企業(一定規模を持ち、業務内容が特殊でない)4事業所の女性労働者のデータを収集した。

結果

A医療法人職員350名の内310名から有効回答を得た(有効回答率 88.6%)。この内調査群に該当する交代制勤務を伴う女性労働者は172名であった。対照群に該当するものは、上記A病院と一般4企業における日勤のみの女性労働者計96名である。また、年次比較に用いる前回1999年調査における調査群は155名、対照群は77名であった。交代制勤務の有無と年次により2X2の4群間で群間比較を行った。I群;1999年交代制勤務群、II群;2012年交代制勤務群、III群;1999年日勤のみ群、IV群;2012年日勤のみ群である。主なメンタルヘルス関連の主な測定変数について年齢層別(18-29才、30-39才、40-49才、50-59才)に比較した。

1)週当たりの平均労働時間は、1999年と2012年とを比較すると、交代制勤務の有無を問わず40歳代を除いた年齢層で若干増加傾向にあり、50才台の日勤のみ群が最も高かった。また、週当たりの平均睡眠時間は、1999年と2012年とを比較すると交代制勤務の有無を問わず40歳代を除いた年齢層で減少傾向にあった。

2)「仕事量的負荷」尺度は、1999年と2012年とを比較すると50歳代の交代制勤務群では増加しているが、その他の年齢層ではむしろ減少していた(図1)。「仕事将来不明確」尺度は、1999年と2012年とを比較すると、ほとんどの年齢層で減少しており「仕事コントロール(作業制御)」尺度は、1999年と2012年とを比較すると、交代制勤務の有無を問わず、全ての年齢層で顕著に増加していた。「仕事非仕事葛藤」尺度は、1999年と2012年とを比較すると、交代制勤務の有無を問わず、30才台と50才台で増加していた。

仕事量的負荷尺度の比較

3)「上司からの社会的支援」尺度では、1999 年と2012年とを比較すると、交代制勤務の有無を問わず、全ての年齢層で増加していたが、若年層で顕著であった(図2)。「同僚からの社会的支援」尺度においても同様であった。「配偶者からの社会的支援」および「(職場以外の)友人や(配偶者以外の)家族からの社会的支援」においても、交代制勤務の有無を問わず増加傾向が見られた 。

社会的支援尺度(上司)の比較

4)「診断的抑うつ評価尺度」であるDSDの陽性率は、 1999年と2012年とを比較すると、交代制勤務の有無を問わず、30歳以上の年齢層では増加していた(図3)。

抑うつ判定率の比較

5)今回の DSD判定を従属変数として、各仕事ストレッサ―尺度得点と各社会的支援尺度得点、年齢、交代制勤務の有無を独立変数として強制投入し、ロジスティック回帰分析を行った。仕事量的負荷尺度のみがオッズ比 1.34(95%CI 1.01-1.77)にて統計学的に有意に高かった(p=0.04)(表1)。

抑うつ判定へ影響する因子

6)労務関係担当者への質問紙調査後の聞き取りでは、結果に肯定的であった。

考察

全般的には、女性労働者の各種メンタルヘルス関連指標は、13年間を経てやや改善していた。特に各社会的支援尺度得点の若年層における増加は、若年層への職場サポート意識の高まりを示す証左と考えられる。また、前回同様、交代制勤務そのものが女性労働者のメンタルヘルス指標に悪い影響を及ぼすとは言えなかった。中高年齢層の女性労働者は総労働時間が増え、睡眠時間が減っており、仕事の量的負荷が増大し、仕事と家庭との葛藤も増加し、それが抑うつ率を上昇させている可能性が示唆された。今後は中高年齢層女性労働者への公的なメンタルサポートが重要になると思われる。