群馬県におけるストレスチェック制度の検証と最新のメンタルヘルス対策マニュアルの作成

研究代表者 群馬産業保健総合支援センター産業保健相談員 竹内一夫

研究分担者 群馬産業保健総合支援センター所長 真下延男

群馬産業保健総合支援センター産業保健相談員 松岡治子

群馬産業保健総合支援センター産業保健相談員 菊池智子

はじめに

ストレスチェック制度施行と言う大きな転換期を迎え、今回、過去に定点調査を実施してきた群馬県下の企業においてメンタルヘルス指標の変化を調べることにより、新制度の有効性を検証し、最新の動向を踏まえたマニュアルへの提言をまとめた。

先行研究、これまでの経緯

平成10(1998)年、群馬産業保健推進センター(当時)の産業保健調査研究として、普及し始めていた米国労働安全衛生研究所(NIOSH)の仕事ストレスモデルに基づく職場メンタルヘルス調査が実施された(Study1)。このモデルはストレスチェックにおいて現在最も多くの産業現場で使用されている「職業性ストレス簡易調査票」の原型である。さらに10年後の平成20(2008)年に、同じ企業を対象に、ほぼ同じ内容の職場メンタルヘルス調査が実施された(リーマンショック直後:Study2)。さらに平成23年(2011)にも実施した(東日本大震災発生後:Study3)。今回がStudy4となる。

対象と方法

前回調査(Study3)で使用された質問票(4ページ)をベースとし、今回はさらに質問項目を短縮した。過去に協力を得られた群馬県下の4事業所において、資本母体が代わった会社や、事案の発生により当該年度に実施することが出来なくなった部門については代わりに関連会社に協力を依頼し、踏査を実施した。

研究成果の活用予定

本研究の成果は最新のメンタルヘルス対策のマニュアルとして群馬産業保健総合支援センターのHP上に一般公開され、また同センター主催・共催の各種セミナーで資料として活用される。

結果と考察

質問紙調査対象者 705名の内、649名から回答を得た(回収率 92.1%)。従来と同じく年度による比較は、60才未満の男性のみを対象とした。

1)全年齢層にわたって残業時間は増加している一方で、仕事「量的負荷」尺度得点はむしろ減少している(図1)。しかし、「役割葛藤」尺度(仕事のためにプライベートが上手くいかない)は顕著に増加している(図2)。対象者は残業時間の増加については容認しているものの、それがプライベートや家庭を損ねることに対して強いストレスを感じていることが推測される。残業がプライベートなイベントと重ならないように調整するといった職場側の配慮・工夫が求められている。

図1図2

2)一方、「うつ状態の疑い」と判定されるもの(図3)は過去最多の3.2%に達しており、中高年齢層では微増であったが、若年・青年層で明らかな増加が見られた。ハイリスクグループの発生自体は減っておらず、むしろ増えている。多重ロジスティック回帰分析において、仕事の量的負荷が増えることが悪化要因であり、逆に同僚からのサポートが増えることが改善要因であることが示唆された(表1)。メンタルヘルス不調が疑われるものに対しては、まずは仕事上量的負担を軽減させ、同僚からのサポートを増やすための職場側の配慮や工夫が、やはり必要と考えられる。

図3表1

3)全般的な身体・精神の健康状態についての自覚は、これまで悪化を懸念されていた中高年齢層で、むしろ回復・改善傾向が見られたが、若年・青年層ではやや悪化傾向にあった。「仕事コントロール」(裁量権)も、過去において低下が著しかった中高年齢層でわずかながら回復の兆しが見られ、若年層でもやや増加する傾向が見られたが、一方、30才台では悪化の傾向が見られた。

4)30才台については、今回negativeな知見が多かった.残業時間や過去のストレスが40才台に次いで多く、「量的負荷」、「将来不明確」および「役割葛藤」が最も高く、「上司からのサポート」および「同僚からのサポート」が最も低く、「仕事満足度」も最も低かった。「離職念慮」や「うつ状態判定」が増加していることから考えても、現時点で最も注意を払うべき年齢層である。

上記、今回と過去3回の調査結果の差異は、必ずしもストレスチェック制度施行の影響と解釈することはできないが、同制度実施により急速に高まった、職場のメンタルヘルスに関する労働者・雇用主の関心が、全体に良い影響を与えている可能性は高いと考えられる。ストレスチェックは、こうした「声なき声」を取り上げることに有効であると考えられるが、その知見の利用方法についてはまだ未開拓な点もあり、データの集積を待って現場の管理と指導の実践に十分に活用していくことが望まれる。

本調査の結果を群馬産業保健総合支援センターが現在HP上に公開している「メンタルヘルス対応マニュアル」に追加し、最新版を構成することを企画している。